退職した人が、まだ
グループチャットに
残っていませんか
先日、在タイ日系企業の方々と話していて出てきた実話です。 セキュリティの大掛かりな話ではありません。誰の会社でも起きていて、 そして誰も見ていない場所の話です。
「うちは大丈夫です」の
すぐあとに出てきた話
タイ拠点のコミュニケーションについて話していたときのことです。 私たちから、こう聞きました。
「70人とかいると、退職者が出たときに消し忘れて、その人が競合に行ったらトラブルになる、という話をよく耳にするんですけど、その辺はちゃんと管理されているイメージですかね」
返ってきた答えは、こうでした。
「弊社の場合は離職者がなかなかいないんですよ。離職率がすごく低くて。グループに登録している人たちはマネージャークラスなので、特に入れ替わりがないように管理しています」
筋の通った答えです。実際そのとおりに運用されているのだと思います。 ところが、その直後に、同席していた別の方から、 自分の会社で起きたこととして、こんな話が出ました。 順を追うとこうなります。
「退職の挨拶だけ打って、そのまま入っていたんです。それはあかんやろ、と言って整理しました」
この二つの発言が同じ場で続けて出てきたことが、この話の要点です。 管理していないから残るのではありません。管理しているつもりでも残ります。
そして気づいたきっかけは、監査でもチェックリストでもなく、 たまたま一人を外したことでした。 その人が帰任しなければ、今も残っていたはずです。
「退職の挨拶」が、
いちばん厄介です
退職する人は、たいていグループに挨拶を書きます。長らくお世話になりました、と。 みんなが「お疲れさまでした」と返す。そこで、その話は終わったことになります。
けれど、挨拶は「外れる」操作ではありません。 本人は書いて満足し、周りは読んで見送った気持ちになる。 誰も、実際にメンバー一覧から消す作業をしていません。
しかも、その挨拶がグループの履歴に残ります。あとから見返したとき、 「この人はちゃんと挨拶して辞めた」という記録があるので、 もう居ないものとして扱われます。実際には、まだ全部読めています。
入るときは、頼む人がいて、完了が全員に見えます。 辞めるときは、頼む人がいなくて、完了も見えません。 この非対称が、そのまま残留になります。
仕組みで防げない
3つの事情
日本の本社から見ると「アカウント管理をきちんとすればいい」で終わる話です。 ただ、タイの現場には、それを難しくする事情があります。
会社のアカウントを止めれば終わる
- ・退職時に社内システムのIDを失効させる
- ・会社支給の端末を回収する
- ・これで情報は遮断できているはず
止める対象が、会社の外にある
- !私物スマホが前提。会社支給はマネージャーまでで、その下は個人の端末で仕事の連絡をしている
- !グループチャットが業務の主線。指示も写真も、そこを通っている
- !個人のアカウントなので、会社が消せない。できるのは「グループから外す」ことだけで、それは手作業
三つ目が効きます。会社のIDなら管理画面から止められますが、 個人のアカウントは誰かが手で外すしかありません。 手作業は、忘れます。
そして「マネージャークラスしか入れていないから大丈夫」という運用も、 裏を返せばいちばん見られたくない情報が流れているグループだということです。 人数が少ないぶん、一人残っているときの中身は重くなります。
「読まれている」
だけでは済まない
実害としては、だいたいこの三つです。
新規案件の情報が、競合に流れる
辞めた人が同業に移っていた場合、こちらが新しい引き合いの話をグループでするたびに、そのまま届きます。悪意がなくても、目には入ります。
取引先や従業員の個人データが、社外の人に見えている
グループには氏名・連絡先・写真が日常的に流れます。退職者は、その時点で社外の人です。「誰がアクセスできる状態か」を説明できなくなります。
気づいた側が、何も言えなくなる
今回の話がまさにそうでした。日本人が帰任するときに気づいたから整理できただけで、その機会がなければ、そのままです。気づく仕組みが無い。
本記事は法的助言ではありません。個人データの取り扱いに関する具体的な判断は、タイの個人情報保護の専門家にご相談ください。
まず、数えるところから
仕組みを作る前に、一度だけ現状を見てください。10分で終わります。
業務で使っているグループを、全部書き出す
拠点全体・部署・プロジェクト・「なんとなく続いている」もの。数え漏れるのはたいてい最後のものです。
各グループのメンバー一覧と、現在の在籍者名簿を突き合わせる
記憶で確認しないでください。名簿を横に置いて、一人ずつ見ます。
退職手続きのチェックリストに「グループから外す」を足す
最終出社日ではなく、退職が決まった日にやる項目として入れます。最終日は必ずバタバタします。
外す人を、役職ではなく名前で決める
「マネージャーが」ではなく「◯◯さんが」。担当が決まっていない作業は、実行されません。
そのうえで、業務の連絡そのものを、個人のアカウントに頼らない場所へ移していく—— という話になります。ただ、それは次の段階です。 まず今、何人残っているかを数えてください。 ゼロだったなら、それはそれで確認できたということです。