INSIGHTS / タイ拠点の運用

退職した人が、まだ
グループチャットに
残っていませんか

先日、在タイ日系企業の方々と話していて出てきた実話です。 セキュリティの大掛かりな話ではありません。誰の会社でも起きていて、 そして誰も見ていない場所の話です。

INSIGHTS 2026.08.03 VANNESS ASIA
スマートフォンのグループチャット画面と、そこに残ったままの元メンバー
アカウントの棚卸しは、入れるときではなく、外すときに抜け落ちる
01 / 実際にあった話

「うちは大丈夫です」の
すぐあとに出てきた話

タイ拠点のコミュニケーションについて話していたときのことです。 私たちから、こう聞きました。

「70人とかいると、退職者が出たときに消し忘れて、その人が競合に行ったらトラブルになる、という話をよく耳にするんですけど、その辺はちゃんと管理されているイメージですかね」

返ってきた答えは、こうでした。

「弊社の場合は離職者がなかなかいないんですよ。離職率がすごく低くて。グループに登録している人たちはマネージャークラスなので、特に入れ替わりがないように管理しています」

筋の通った答えです。実際そのとおりに運用されているのだと思います。 ところが、その直後に、同席していた別の方から、 自分の会社で起きたこととして、こんな話が出ました。 順を追うとこうなります。

気づくまでの流れ
1グループにいた日本人スタッフが帰任したもう業務から離れる
2「じゃあ外しておこう」と、その人をグループから外した
!周りに「外すんですか?」と驚かれた外すという発想が、そもそも無かった
!では、前に辞めた人たちは外したのか——と確認したここで初めて、誰も確認していなかったと分かる
!全員、そのまま残っていた退職の挨拶だけが書き込まれていた

「退職の挨拶だけ打って、そのまま入っていたんです。それはあかんやろ、と言って整理しました」

この二つの発言が同じ場で続けて出てきたことが、この話の要点です。 管理していないから残るのではありません。管理しているつもりでも残ります。

そして気づいたきっかけは、監査でもチェックリストでもなく、 たまたま一人を外したことでした。 その人が帰任しなければ、今も残っていたはずです。

02 / なぜ気づけないのか

「退職の挨拶」が、
いちばん厄介です

退職する人は、たいていグループに挨拶を書きます。長らくお世話になりました、と。 みんなが「お疲れさまでした」と返す。そこで、その話は終わったことになります。

けれど、挨拶は「外れる」操作ではありません。 本人は書いて満足し、周りは読んで見送った気持ちになる。 誰も、実際にメンバー一覧から消す作業をしていません。

しかも、その挨拶がグループの履歴に残ります。あとから見返したとき、 「この人はちゃんと挨拶して辞めた」という記録があるので、 もう居ないものとして扱われます。実際には、まだ全部読めています。

入るとき
1入社が決まる日付が決まっている
2誰かが「グループに入れておいて」と言う頼む人がいる
3追加される本人が挨拶するので、完了が全員に見える
辞めるとき
1退職が決まる最終出社日はバタバタしている
!本人が挨拶を書くここで「終わった」ことになる
!誰も外さない外すよう頼む人がいない。外しても誰にも見えない

入るときは、頼む人がいて、完了が全員に見えます。 辞めるときは、頼む人がいなくて、完了も見えません。 この非対称が、そのまま残留になります。

03 / タイ拠点で起きやすい理由

仕組みで防げない
3つの事情

日本の本社から見ると「アカウント管理をきちんとすればいい」で終わる話です。 ただ、タイの現場には、それを難しくする事情があります。

本社から見た前提

会社のアカウントを止めれば終わる

  • 退職時に社内システムのIDを失効させる
  • 会社支給の端末を回収する
  • これで情報は遮断できているはず
タイ拠点の実情

止める対象が、会社の外にある

  • !私物スマホが前提。会社支給はマネージャーまでで、その下は個人の端末で仕事の連絡をしている
  • !グループチャットが業務の主線。指示も写真も、そこを通っている
  • !個人のアカウントなので、会社が消せない。できるのは「グループから外す」ことだけで、それは手作業

三つ目が効きます。会社のIDなら管理画面から止められますが、 個人のアカウントは誰かが手で外すしかありません。 手作業は、忘れます。

そして「マネージャークラスしか入れていないから大丈夫」という運用も、 裏を返せばいちばん見られたくない情報が流れているグループだということです。 人数が少ないぶん、一人残っているときの中身は重くなります。

04 / 何が起きうるか

「読まれている」
だけでは済まない

実害としては、だいたいこの三つです。

01

新規案件の情報が、競合に流れる

辞めた人が同業に移っていた場合、こちらが新しい引き合いの話をグループでするたびに、そのまま届きます。悪意がなくても、目には入ります。

02

取引先や従業員の個人データが、社外の人に見えている

グループには氏名・連絡先・写真が日常的に流れます。退職者は、その時点で社外の人です。「誰がアクセスできる状態か」を説明できなくなります。

03

気づいた側が、何も言えなくなる

今回の話がまさにそうでした。日本人が帰任するときに気づいたから整理できただけで、その機会がなければ、そのままです。気づく仕組みが無い。

本記事は法的助言ではありません。個人データの取り扱いに関する具体的な判断は、タイの個人情報保護の専門家にご相談ください。

05 / 今日できること

まず、数えるところから

仕組みを作る前に、一度だけ現状を見てください。10分で終わります。

STEP 01

業務で使っているグループを、全部書き出す

拠点全体・部署・プロジェクト・「なんとなく続いている」もの。数え漏れるのはたいてい最後のものです。

STEP 02

各グループのメンバー一覧と、現在の在籍者名簿を突き合わせる

記憶で確認しないでください。名簿を横に置いて、一人ずつ見ます。

STEP 03

退職手続きのチェックリストに「グループから外す」を足す

最終出社日ではなく、退職が決まった日にやる項目として入れます。最終日は必ずバタバタします。

STEP 04

外す人を、役職ではなく名前で決める

「マネージャーが」ではなく「◯◯さんが」。担当が決まっていない作業は、実行されません。

そのうえで、業務の連絡そのものを、個人のアカウントに頼らない場所へ移していく—— という話になります。ただ、それは次の段階です。 まず今、何人残っているかを数えてください。 ゼロだったなら、それはそれで確認できたということです。

現場の連絡を、
会社の側に置きませんか。

誰が入っていて、誰が外れたか。それが分かる場所で仕事の会話をするための仕組みをご相談ください。