07 · INSIGHTS

社内のどのデータを、
どのAIに入れてよいか

「これ、AIに入れていいんですか?」——現場から一番よく出る質問です。うちがタイの工場で実際に使っている判断基準を、全部書き出しました。データの4分類、区分ごとの○△×、外部AIに渡す前の5つの確認、そして「外に出せない」データを使えるようにする3つの方法まで。

SECURITY 2026.09.10 VANNESS ASIA
タイの工場の会議室で、日本人管理者とタイ人スタッフがホワイトボードの前に立ち、書類を4つの列に仕分けている

社内のデータを4つに仕分けるところから始めます(イメージ)

01 · まず分ける

社内のデータを、
4つに分けます。

「AIは危ないから禁止」も「AIを活用しよう」も、どちらも粗すぎます。社内にあるデータは全部同じ重さではないからです。カタログと図面を同じルールで扱おうとするから、話が止まります。

だから最初にやるのは、技術の話ではなく仕分けです。うちは4つに分けています。大事なのは分類そのものより、右側の「判断の質問」のほうです。これなら、ITが分からない人でも自分で仕分けられます。

01公開可能

会社案内、製品カタログ、公開済みの規格や法令、求人票、プレスリリース。

判断の質問そのままウェブサイトに載せて、困りませんか?

02社内限定

議事録、日報、社内手順書、シフト表、社内向けの説明資料、社内メール。

判断の質問社外の人に見られたら気まずいけれど、賠償や報告にはならない範囲ですか?

03機密

図面、配合・レシピ、原価、歩留まり、顧客リスト、見積、契約書、自社開発のソースコード。

判断の質問漏れたとき、顧客・本社・当局のどれかに報告しなければいけませんか?

04持出禁止

顧客から預かった図面・仕様書、NDAで縛られたデータ、従業員や顧客の個人情報。

判断の質問契約書か法律に、「外に出すな」と書いてありますか?

①②と、③④のあいだに線があります。③④は、外に出た時点で自分たちだけの問題ではなくなるものです。誰かに謝りに行く必要が出てきます。

02 · 実例で見る

あの3件は、
どの区分だったか。

2023年、サムスン電子の半導体部門が社員のChatGPT利用を許可したところ、約20日のあいだに3件の社内情報が入力されていたことが確認されました。分類にあてはめると、こうなります。

3件の内訳

① 半導体設備測定データベースのダウンロードソフトのソースコード区分③ 機密

② 歩留まりや不良設備を把握するプログラムのソースコード区分③ 機密

社内会議の録音を文字に起こした議事録 → 区分② 社内限定(ただし中身によっては③)

出典:PC Watch 2023年4月4日(韓国Economist 2023年3月30日報道より)
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/yajiuma/1490904.html

3件とも悪意はありません。エラーを直したかった、コードを速くしたかった、議事録を早く作りたかった。真面目に仕事をしている人の行動です。

起きたことを一言でいうと、「区分②の感覚で、区分③を貼った」です。本人の頭の中で線が引かれていなかった。だから「気をつけよう」と朝礼で言っても防げません。線を先に引いて、紙にしておくしかないのです。

この事件のその後——禁止と、3年後の解禁までの経緯は、こちらの記事に書いています。

03 · どこで使ってよいか

全部をローカルにする
必要は、ありません

「社外に出せないなら、全部社内のAIでやろう」と考える方がいますが、それは効率が悪いです。①②まで社内に囲い込むと、手間もお金も無駄になります。区分ごとに、使う場所を変えます。

▼ うちがタイの工場で実際に使っている基準です(法令の要求ではありません)

データの区分 一般のクラウドAI
(無料版・個人契約)
法人契約の
クラウドAI
社内で動かすAI
(ローカルLLM)
① 公開可能
② 社内限定固有名詞を伏せれば
③ 機密×下の5つに答えられたら
④ 持出禁止××

この表の読み方は1つだけです。社内で動かすAIが要るのは、③と④のため。①②のために買うものではありません。

逆に言うと、③④を扱う業務が社内に1つも無いなら、法人契約のクラウドAIで十分です。うちはその場合、正直にそう言います。製造業で③④が1つも無い会社を、私はまだ見たことがありませんが。

04 · △を○にする

外部のAIに機密を渡す前に、
確認する5つ

区分③を法人契約のクラウドAIで扱えるかどうかは、次の5つに答えられるかで決まります。「たぶん大丈夫」ではなく、契約書か管理画面のどちらかを開いて確認します。

1
入力したものが、学習に使われないか設定でオフにできるだけでなく、契約や利用規約にそう書いてあるか。設定は誰かが戻せます。
2
入力したものが、どれだけ保存されるか保持期間はどれくらいで、こちらから消してもらえるのか。
3
提供側の誰が、それを見られるか不正利用の監視などで、提供側の従業員が中身を見られる条件があるか。
4
どこの国で処理されるかタイPDPA(個人情報保護法)の国外移転の検討が要るかどうかが、ここで決まります。
5
その設定を、誰が管理しているか会社の管理下にあるか。担当者が自分の個人アカウントで同じ作業をできてしまう状態なら、上の1〜4は意味を持ちません。
なぜ、そこまで確認するのか

2023年3月20日、ChatGPTの不具合で他の利用者の会話タイトルが表示され、さらにPlus会員の約1.2%について氏名・メールアドレス・請求先住所・カード下4桁・有効期限が別の会員に見えた可能性があると、OpenAIが公表しています(原因はキャッシュ用ライブラリの不具合。OpenAI公式)。利用者側は何もミスをしていません。これが2番と3番を確認する理由です。

2025年には、ChatGPTの共有リンクを検索エンジンに載せる設定があり、4,500件超の共有会話がGoogleに索引されているのをFast Companyが確認しました。氏名・職務経歴・仕事上の機微な内容を含むものもあり、OpenAIは設定を廃止しています(The Register, 2025年8月1日)。チェックボックス1つです。これが5番を確認する理由です。

この5つに紙で答えられないなら、区分③は入れない。これがうちの線です。難しく聞こえますが、やることは「契約書を開く」「管理画面を開く」の2つだけです。

そして5番目が、実務では一番よく抜けます。会社として法人契約をしていても、現場の誰かが自分のスマホの無料版に貼っていたら、全部が無効になります。タイの現場では会社支給のスマホがマネージャー層までのことが多く、ここは制度だけでは埋まりません。

本記事は法的助言ではありません。タイPDPAの解釈・適用に関する具体的な判断は、タイの個人情報保護の専門家にご相談ください。

05 · ×を使えるようにする

「外に出せない」で
終わらせない、3つの方法

ここからが本題です。区分③④は外に出せません。ただ、外に出せないことと、AIで使えないことは別です。手は3つあります。

方法 1

社内で完結させる

工場の中のPC1台の中でAIを動かします。送信先が存在しないので、③④をそのまま入れられます。国外移転も学習利用も、論点になりません。

→ ③④を、そのまま使える
方法 2

伏せてから渡す

社名・人名・型番を「A社」「設備X」に置き換えて②に落とします。ただし人がやると必ず抜けます。恒常的にやるなら自動で置換する仕組みにします。

→ ②向け。③には使わない
方法 3

権限を分ける

社内で動かす場合も、全員が全部を見てよいわけではありません。部署ごとに読める範囲を切り、誰が何を聞いたかの記録を残します。

→ 方法1とセットで使う

方法2について、正直に書いておきます。伏せれば安全、とは言い切れません。型番と数値の組み合わせは、伏せても元が分かってしまうことがあります。だからうちは方法2を区分③には使いません。②を①に落とすための手段だと考えています。

06 · 社内でも、線は要る

「社内だから安全」は、
思考停止です。

工場の中にAIを置いたら終わり、ではありません。社内なら何を見てもいいわけがないからです。保全の担当者が給与の表を引けたら、まずいです。

箱を置く前に、3つを決めます。

社内AIを置くときに決めること

① 誰が聞けるか。ログインの仕組みと、部署ごとに読める範囲。

② 何を聞いたかが残るか。誰がいつ何を検索したかの記録。事故が起きたときに追える状態にしておく。

③ AIが読めるフォルダはどこまでか。社内の共有フォルダを丸ごと読ませない。区分④は、置き場所ごと分ける。

この3つは、私たちが勝手に決めるものではありません。会社の中の話なので、社長や工場長と一緒に決めます。先に決めておかないと、後で必ずもめます。

07 · 最初の1つ

全部やろうとすると、
止まります

ここまで読むと、やることが多く見えると思います。実際、全社のデータを全部仕分けしようとした会社は、だいたい途中で止まります。

だから最初は1つに絞ります。1つの業務 × 1つのデータ区分 × 1つの数字。

たとえば「保全記録(区分③)を検索できるようにして、繰り返し起きている故障の上位を出す」。これなら、仕分けるのは保全記録だけで済みますし、うまくいったかどうかも1つの数字で判断できます。

ここで区分③か④の業務を選ぶのがコツです。①②を選ぶと、法人契約のクラウドAIで足りてしまい、社内AIを置く理由がなくなります。一番外に出せないものを、最初にやる。それが一番効きます。

08 · この基準の出どころ

これは、机の上で
作った基準ではありません

ここまでの分類も5つの確認も、タイの工場で実際に使っているものです。タイ東部(チョンブリ・ラヨーン)の自動車パーツメーカーでは、20年分・21,655件の保全記録——区分③——を、工場の中のPCだけで引けるようにしました。その実例と、かかった金額は別の記事にまとめています。

この仕分けと環境づくりは、うちの12週間プログラムの第2週にあたる部分です。日本人の管理職だけでなく、タイ人スタッフも同じ内容を受けます。片方だけが線を知っている状態は、機能しないからです。

始め方は2つあります。①データ診断(30,000 THB・訪問1日)——伺って、その場で御社のデータを解析します。データは持ち帰りません。何ができそうか・何が足りないかをレポートでお渡しします。12週間プログラムに進まれる場合は、この金額を充当します。②12週間プログラム(月100,000 THB × 3ヶ月)——そのまま始める場合です。詳しくはローカルLLM導入支援のページに書いています。

この記事の分類表は、そのまま社内で使っていただいて構いません。うちに頼まなくても、線を引くところまでは自分たちでできます。

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