「セキュリティを考えると、
社内の情報処理にAIは
まだやっちゃダメな気がする」
——でも、もったいない。
雑に使えば、本当に漏れます。だから止まるのは分かります。ただ、全く使わないのは、もったいない。サムスンが3年かけて準備したことを、小さくでいいので12週間で。タイ東部の工場でやった実例と、かかったお金を全部書きました。
20年分の記録と、それを引けるようにしたPC1台(イメージ)
事故は、
預けた先でも起きます。
「うちの社員が気をつければいい」で済む話なら、まだ楽です。実際には、こちらが何もミスをしていなくても起きます。実例を2つ、正確に置いておきます。どちらも、提供している会社が自ら公表したものです。
ChatGPTに不具合が発生し、一部の利用者に他の利用者の会話のタイトルが表示された。同じ時間帯に使っていた場合、新しく始めた会話の最初のメッセージが他人の履歴に見えた可能性もある。
さらに同日の一定時間、ChatGPT Plus会員の約1.2%について、氏名・メールアドレス・請求先住所・クレジットカード番号の下4桁・有効期限が、別の会員に見えた可能性があると公表された(カード番号全体は含まれない)。
原因は、内部で使っていたキャッシュ用ライブラリ(redis-py)の不具合。利用者側のミスではありません。
出典:OpenAI「March 20 ChatGPT outage: Here's what happened」
https://openai.com/index/march-20-chatgpt-outage/
ChatGPTの「共有」機能に、共有リンクを検索エンジンに載せる設定があった。2025年7月末、Fast Company が4,500件を超える共有リンクがGoogleに索引されているのを確認。氏名や職務経歴、仕事上の機微な内容を含むものもあった。
OpenAIはこの設定を廃止し、索引の削除を進めると表明。ただし検索側のキャッシュのため、一部はしばらく残ると説明している。
出典:The Register「OpenAI removes ChatGPT self-doxing option」2025年8月1日
https://www.theregister.com/2025/08/01/openai_removes_chatgpt_selfdoxing_option/
2つに共通しているのは、会話を貼った人は何もルール違反をしていないことです。1つ目は提供側の不具合。2つ目はチェックボックス1つ。「気をつけよう」と朝礼で言っても、どちらも防げません。
そこに、もう1つ重なります。社員が普通に仕事をした結果、機密が外部サービスに渡ってしまうことです。2023年、サムスン電子の半導体部門が社員のChatGPT利用を許可したところ、約20日のあいだに設備測定データベースのソースコード、歩留まり把握プログラムのソースコード、社内会議の議事録が入力されていたことが確認されています(PC Watch, 2023年4月4日)。3件とも悪意はありません。エラーを直したかった、コードを速くしたかった、議事録を早く作りたかった。それだけです。
図面、原価、歩留まり、顧客リスト。これが外に出たら、社内で謝って終わりにはなりません。顧客か、本社か、当局のどれかに報告することになります。だから「まだやっちゃダメな気がする」で止まるのは、まっとうな判断です。
全く使わないのは、
もったいない。
あの3件が危なかったのは事実です。ただ、そこから「AIは全部ダメ」に飛ぶと、失うものが大きすぎます。社内にあるデータは、全部が同じ重さではないからです。
うちはタイの工場で、社内のデータを4つに分けてから始めます。
▼ うちがタイの工場で使っている仕分けです
止めるべきなのは③④であって、①②ではありません。そして③④も、外に出さなければ使えます。工場の中のPC1台の中でAIを動かせば、送信先そのものが存在しないからです。
この4分類の判断基準(どうやって仕分けるか)、区分ごとの○△×、外部AIに機密を渡す前に確認する5つ、そして「外に出せない」ものを使えるようにする3つの方法は、こちらの記事に全部書き出しました。そのまま社内で使っていただいて構いません。
この記事では、その先——実際に何ができて、いくらかかるのかを書きます。
「前にも同じ故障、ありましたよね?」
——それ、確かめられますか。
工場で、こういう会話をしたことがあると思います。
「これ、前にも同じ故障ありましたよね?」
「あー、あったあった。5年くらい前かな。……どう直したんだったかな」
ここで、だいたい手が止まります。記録が無いわけではありません。日報も保全記録も、20年分ちゃんと書かれています。ただ、Excelの列がずれていて、書いた人によって言葉が違って、日本語と英語とタイ語が混ざっている。だから開いても探せない。結局、ベテランの記憶が唯一の検索手段になります。そして、その人はいつか辞めます。
タイ東部(チョンブリ・ラヨーン)の自動車パーツメーカーでの実例です。社名は守秘のため公開していません。
20年分・21,655件の保全記録。24ライン・659台の設備について、39名が書き残したもの。日本語・英語・タイ語が1つの表に混在。
原因欄の13%が、空欄か「不明」。
39名が20年書いた、というところが肝です。1人が几帳面に書き続けた表なら、たぶん今でも探せます。39人が、それぞれの書き方で、それぞれの言語で書いたから探せなくなりました。これは怠慢ではなく、20年続いた工場なら普通に起きることです。
この記録を、工場の中のPCに入れて、社内のネットワークだけで引けるようにしました。かかったのは12週間です。この案件で分かったことを、いま12週間のプログラムとして型にしています。社内から1〜2名に毎週2時間出ていただき、最後に「動くAI1つ」と「それを自分で直せる人1名」が残る形です。
先に、正直なところを書いておきます。原因が書かれていない13%は、何をやっても「不明」のままです。埋まりません。無いものは無いです。
出てくるのは作られた文章ではなく、
過去の記録そのもの。
ここが、一番誤解されるところです。「AIに聞く」と言うと、AIが考えた答えが返ってくると思われます。私たちが作っているのは、そうではありません。曖昧な言葉から、当時の担当者が書いた行を、そのまま引っぱり出すものです。
実際に出てくるのは、こういう記録です。
▼ 以下は商談の実演で使っている架空のデモデータです。お客様の実データは実演に使いません。
1件目は英語、2件目はタイ語と英語まじり、3件目は日本語です。しかも2件目は bering(正しくは bearing)と綴りが違います。それでも、同じ質問で一緒に出てきます。「まず記録をきれいに書き直さないと使えない」と思われがちですが、そんなことはありません。今のまま、そのまま入れます。
もうひとつ、正直に見せておきます。こういう行も、同じように出てきます。
原因は「No cause」。当時わからなかったものは、わからないまま出てきます。ここを埋めさせると、それらしい嘘が混ざります。埋めない設計にしてあります。
だから、判断は今までどおり現場の人がします。位置づけとしては「記憶力だけが異常にいい新人」です。新人の言うことをそのまま信じる工場長はいないと思いますが、20年分の記録を1件残らず覚えている新人がいたら、聞いてみる価値はあります。
AI利用料は0円。
ただし、タダではありません。
一番聞かれるのに、どこにも書いていないので書きます。工場の中のPCで動かす場合、かかるお金はこれで全部です。
一度きり
「AI利用料0円」は、金額の話に見えて、実は使い方の話です。クラウドのAIは使った分だけ請求が増えるので、「とりあえず回してみる」が一番お金のかかる使い方になります。すると人は遠慮します。遠慮すると、使わなくなります。
工場の中のPCなら、帰る前に2万件の分析を仕掛けて翌朝見る、ダメだったらその夜もう一度回す、が何回でもできます。請求書は来ません。電気代は来ます。
SIerのインテック(TIS子会社)は2026年1月29日、製造業・金融業向けに「ローカルLLM導入支援」を発表。オンプレミス環境を最短1ヶ月で構築するもので、参考価格500万円〜(初期導入費用は別途見積もり)。
出典:インテック ニュースリリース 2026年1月29日
https://www2.tisi.jp/news/2026/0129_1.html
サムスンが3年かけたことを、
12週間で。
さきほどのサムスンの話には、続きがあります。同社は2023年5月に社内での生成AI利用を全面的に禁止したと報じられ、そこで止まったように見えました。止まっていませんでした。
出典:Samsung Global Newsroom "Samsung AI Forum 2023 Day 2"(2023年11月8日)https://news.samsung.com/global/samsung-ai-forum-2023-day-2-.../禁止の報道:Bloomberg 2023年5月2日/解禁:The Korea Times 2026年6月11日
禁止した半年後に、自社の生成AIモデル「Samsung Gauss」を発表しています。そして2026年6月、外部のAIも解禁しました。外に出せないものを社内で扱える状態を先に作って、それから外の話をした——順番の話です。
持っている会社は選べます。持っていない会社の選択肢は、禁止し続けるか、諦めて全部外に出すかの2つだけです。
タイの工場が同じ位置に立つのに、3年は要りません。自社でモデルを作る必要がないからです。やるのは、既にある記録を、社外に出さずに引ける状態にすること。小さくていい。1つの業務、1つのデータ区分、1つの数字から始めます。それが12週間です。
始め方は2つあります。①データ診断(30,000 THB・訪問1日)——伺って、その場で御社のデータを解析します。データは持ち帰りません。何ができそうか・何が足りないかをレポートでお渡しします。12週間プログラムに進まれる場合は、この金額を充当します。②12週間プログラム(月100,000 THB × 3ヶ月)——そのまま始める場合です。詳しくはローカルLLM導入支援のページにまとめています。
どちらにしても、最初にお聞きしたいのは1つだけです。「うちにこういう記録があるんだけど」。Excelでも、紙をスキャンしたPDFでも、書き方がバラバラでも構いません。