タイの工場で、AIは
どこから使う?
——仕事別の全体像と、始める順番。
故障の記録を探す。紙の帳票を読み取る。見積の下調べをする。日報や報告をまとめる。タイの工場には、AIで楽になる仕事がたくさんあります。うちがタイの工場や倉庫向けに作ってきた仕組みをもとに、仕事ごとに「何が楽になるか」「入れる前に確かめること」「どこから始めるか」を1つの地図にしました。
どの仕事から始めるかを、現場と一緒に決める(イメージ)
この記事の要点
- 工場でAIが得意なのは「探す・読む・書く」の仕事。計算はプログラム、決めるのは人のまま
- タイの工場は「3つの言葉がまざった記録」と「社外に出せない記録」が前提。この2つで、道具と置き場所が決まる
- 全部を一度に変えなくていい。困っている仕事を1つ選び、自分たちの記録で確かめてから広げる
AIが得意なのは、
探す・読む・書く。
「AIで何ができるか」を考えるとき、うちは工場の仕事を3つに分けています。探す、読む、書く。どれも、今は人が時間をかけてやっている仕事です。
そして、AIに任せない仕事も先に決めています。計算はプログラムに、決めるのは人に。こう分けておくと、AIを入れても「どこまで信じていいか」で迷いません。

探す——故障の記録、過去の見積
ラインが止まったとき、症状を打ち込むと、過去の似た故障と、そのときの直し方が出てくる。ベテランが休みの日でも、ベテランの記録から探せます。詳しくは故障記録の記事に全部書きました。
見積の下調べも同じです。うちが作っている見積の試作では、AIの仕事は過去の似た部品を探して並べることと、所見を文章にすることだけ。金額の計算はプログラムがやり、AIが書いた文章の中の数字は、計算結果と突き合わせてから出します。
読む——紙の帳票、伝票、成績書
紙の伝票や成績書(COA)を読み取って、Excelの決まった列に入れる。毎月たくさんの紙を手で打ち直している職場ほど、楽になります。
うちが試してみて分かったのは、難しいのは文字を読むことより、「取引先ごとに、どの欄に何を入れるか」の決まりごとだということです。それから、1行ずれると、その下の行が全部合わなくなる。だから、行の番号ではなく品名で突き合わせ、読み取った結果を正しい値と照らし合わせる仕組みを、先に作ります。
書く——日報のまとめ、議事録、手順書
日報やトラブル報告は、書く人の母国語で書いてもらい、管理者が読む言葉でまとめる。打合せの録音から、要点と宿題を出す。手順書を日本語・タイ語・英語にそろえたり、短い動画にしたりする。
どれも、元の文章にいつでも戻れるようにしておくのがコツです。まとめは早く読むためのもの。気になったら、元の報告を開いて確かめる。
▲ カメラの画像で傷や汚れを見分ける外観検査も、AIの得意分野です。ただ、準備の仕方がほかの仕事と大きく違うので、別の記事で書きます。
タイの工場には、
前提が2つある。
日本の工場向けに書かれたAIの話を、そのままタイの工場に持ってくると、うまくいかないことがあります。タイの工場には、最初から決まっている前提が2つあるからです。
記録は、3つの言葉でまざっている
日本人の管理者は日本語で、タイ人のリーダーはタイ語で、設備メーカーの人は英語で書く。同じ「音がおかしい」も、何通りにも書かれています。誰も間違っていません。
だから、記録の言葉をそろえる必要はありません。そのかわり、3つの言葉をまたいで探せる道具を選ぶ必要があります。うちが架空の故障記録15,000件で測ったところ、道具の選び方だけで、タイ語で探したときの見つかり方が18%から72%まで、4倍変わりました。
社外に出せない記録が、たくさんある
故障の記録、図面、単価、品質のトラブル。工場の記録には、社外に出してはいけない情報が多く入っています。一方で、公開している資料や一般的な文章なら、クラウドのAIを使ったほうが早くて便利なこともあります。
うちは、AIをどこで動かすかを、データの中身で決めます。出してよいものはクラウドのAIも使う。出せないものは、インターネットにつながない社内のPCの中で動かす。紙の帳票の読み取りのように、クラウドのAIを使う場面が多い仕事では、どの帳票なら社外に出してよいかを先に決めます。

線の引き方は、社内のどのデータを、どのAIに入れてよいかに全部書いています。社内のルールづくりに、そのまま使ってください。
ただし、飛びつくと事故る。
うちが知っている4つ。
AIは、今では工場のPC1台でも動かせます。手軽になった分、よく分からないまま入れると、うまくいきません。うちが作って、測って、分かったポイントを4つ書きます。

全部を一度に変えようとする
「せっかくだから、あれもこれも」と始めると、どれも中途半端になります。うちは困っている仕事を1つ選んで、そこで動くところまでやります。1つ動いているものがあると、次に何をやるかを、現場と一緒に考えやすくなります。
AIに計算や判断をさせる
AIは文章を書くのが得意です。その分、数字までそれらしく作ってしまうことがあります。だから、役割をこう分けます。

見積の金額も、故障の件数も、プログラムが出します。AIが出すのは、探してきた記録と、読みやすい文章。それを見て決めるのは、今までどおり現場の人です。
自分たちの記録で確かめずに入れる
同じAIでも、記録の言葉や書き方によって、うまく動いたり動かなかったりします。「デモではうまくいったのに、うちの記録では出てこない」はよく起きます。
うちは、入れる前に、御社の記録で測ってから道具を選びます。答えが分かっている過去の例を10件用意して、AIがちゃんと探せるか、正しく読めるかを数える。そうすれば、「思っていたのと違う」に、入れる前に気づけます。
社内に担当者がいない
AIは、入れた日がいちばん下手です。現場で使って、出てこなかった記録を足して、言葉の一覧を直して、だんだん使えるようになる。その手入れをする人が社内にいないと、だんだん使われなくなっていきます。
うちの12週間の支援では、それを直せる人を社内に1人育てます。ITに詳しい方でなくて構いません。現場を知っていて、記録を見るのが苦にならない方が向いています。
始める順番は、
知る → 見極める → つくる。
いきなり大きく始める必要はありません。うちは、この3段で進めています。どこからでも始められます。

最初の1つは、ワークショップで一緒に決める
勉強会でAIを見ていただくと、「あれもできそう」「うちの部署ならこれ」と、やりたいことがたくさん出てきます。そこで勉強会とセットで、出てきたものを一緒に並べて、どこから始めるかを決めるワークショップを行います。

ある工場で各チームに発表していただいたときは、出てきたご要望の中に、AIを使わず、普通の計算やシステムで作ったほうが確実なものがいくつも混じっていました。並べてみると、AIに頼る前に片付くものも見えてきます。ワークショップは、勉強会とセットでお申し込みいただけます。
左上の「まずここから」の中で迷ったら、次の4つに当てはまるものを選ぶのがおすすめです。
毎週のように困っている
たまにしか起きない仕事より、毎週出てくる仕事のほうが、楽になったことがすぐ分かります。
記録が手元にある
Excelやシステムに、過去の記録がたまっている。紙なら、まず一番困る分だけ入力します。
うまくいったか数えられる
探せた件数、読めた件数、かかった時間。数えられる仕事なら、続けるかどうかを決めやすい。
使う人が、現場にいる
「これがあったら助かる」と言ってくれる人がいる仕事から。その人が、いちばんの改善役になります。
よくある質問。
Q. 何から始めればいいか、まだ分かりません。
それで大丈夫です。社員の皆さんに知ってもらうところからなら勉強会、どこから始めるかまで決めたいなら勉強会とワークショップのセット、御社の記録で何ができるかを知りたいならデータ診断(訪問1日)から始められます。
Q. ChatGPTのようなクラウドのAIではだめですか?
社外に出してよいデータなら、クラウドのAIも便利です。故障の記録や図面、単価のように社外に出せないものは、社内のPCの中で動かします。データの中身で使い分けます。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
12週間の伴走は月100,000 THB×3ヶ月で、PCは別途(約65,000 THB〜・一度きり)です。社内のPCで動かす場合、AIの利用料はかかりません。先にデータ診断(30,000 THB)だけを受けることもできます。
Q. ITに詳しい社員がいません。
担当者は、ITに詳しい方でなくて構いません。現場を知っていて、記録を見るのが苦にならない方を1名お願いしています。
Q. タイ人スタッフも使えますか?
使えます。タイ語で聞けばタイ語で返ってきます。ただし道具の選び方でタイ語の記録の見つかり方は大きく変わるので、そこは入れる前に確かめます。


